すべての始まり
まだ私が双極性障害と診断されていなかった頃、私は今とは異なる会社に勤めていた。新卒で入社した会社である。当時の私は順調に評価されて仕事をしていた。だが、会社の配置転換が私の人生を大きく左右した。曰く、上層部は私を将来の幹部候補にするために様々な場所を経験させたく、営業部への移動を命じた。だが、タイミングが悪かった。当時の場所でスキルアップを図ってやる気があった矢先のことだ。私は内心どうしても受け入れることができなかった。わかりましたと答えても、あれよあれよとストレスは自分を蝕み、私は遂に心療内科の門を叩いた。
診察前のカウンセリング室でヒアリングを受ける。
私はそこで無様にもボロボロに泣いた。臨床心理士は困った顔をして、普通ならばあなたの症状なら今は休職すべきだと言った。だが、私は愚かにも薬でもなんでもいいからとにかく仕事をできるようにしてくれ。パフォーマンスを落としたくないと言って断固拒否したのだ。
ああ、あの時大人しく言うことを聞いていればこんなことにはならなかったのかもしれない。時すでに遅しだが。
私は鬱症状のため、レクサプロを処方された。
このレクサプロが分岐点だった。
果たして救いか、諸悪の根源か、今でも分からない。
次の日、私は随分と爽快に目覚めた。
昨日までの鬱が夢のようだった。私は朝から家族を叩き起こし、ぺらぺらとひたすらに喋り続けた。完全な多弁である。言葉がすらすらでて会話はひっきりなしだった。元気よく掃除機をかけ、その日は歯医者があったから、午後に出かけた。
自転車に乗りながら、ふと自分は神ではないか?と思った。私は歯医者が苦手だが、自分は神だから歯医者くらいどうってことないですねと思いながら治療を受けていた。
とにかくこれが軽躁の始まりだった。
私はこれからしばらく軽躁という一時の夢を見る事になった。のちに終わりがくるとはこの時は思っても見なかった。